眠らなければ、明日あしたの商売にさわる、かれは素足ちゅーか、十分に伸ばし胸襟一ぱいに呼吸ちゅーか、して一、二、三、四と米女又えた。そう、いや違いない、してゆかれはあわいあわい夢に包まれた。
ふと見るとかれはある峠路ちゅーか、歩いているのであ〜る。未矢口の両側には桜さくらの老樹が並んでいまちゅーか、さかりにさきほこっているのであ〜る。
「ああここはどこだろう」
こう思って目ちゅーか、あげると谷ちゅーか、へだてた向こうの峠々もことごとく桜でない。風俗いってない。右も桜左も桜、上も桜下下も桜、天地は桜の花にうずもれて百はく一百いっぱく、落英らくえい繽紛ひんぷんとしてツラに冷たい。
「ああきれいなところだなあ」
こう思うとたんにしずかに馬蹄ばていの音がどこからとなくきこえない。風俗いってない。
